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源宗寺本堂 唐破風向拝正面の蟇股部分に彫られた文字についての考察 [建造物]

 熊谷市平戸に所在する源宗寺は、17世紀初頭に藤井雅楽之助が開基し、本堂内部には薬師如来と観音菩薩の二体の木彫大仏坐像が安置されています。本堂は仏像と同時期に建てられたものと推測され、古都奈良の東大寺大仏殿を模したとも言われています。屋根は、丸瓦と平瓦を使った本瓦葺きで、一重の裳階を付け、正面には唐破風の向拝を設けています。今回考察の対象となるのは、唐破風向拝の正面部分に取り付けられた蟇股部分に彫られた文字です。
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 風化が進み、欠けている部分も見られ、文字の全体像がわかりにくいのが難点ですが、向かって右の文字は「」だと考えられます。「靈」は「神靈」、「靈験」などと使われるように、神秘な力、不思議な力を意味し、神仏と非常に関わりの深い漢字です。また、「靈」の文字は中国では形容詞として、“(神仏・予言・薬・手法・方法などの)効き目がある”という意で使用されます。この中国語での形容詞の用法から、薬の効能、つまり薬師如来を連想することができます。
 
 一方、向かって左の文字は「」ではないかと考えられます。観音経は法華経のなかの一部(「妙法蓮華経観世音菩薩普門品第二十五」)ですが、その一節に「澍甘露法雨(じゅかんろほうう) 滅除煩悩燄(めつじょぼんのうえん)」という経文があります。現代語に訳すと「観音さまを信じていると、甘露のような法雨が降ってきて、人間の心に燃えさかっている煩悩の火にそそいで、火を消しほろぼしてくれます。」(瀬戸内寂聴 2007 p.167)という意味です。「甘露」とは、甘い味の露のことです。「法雨」の「法」は、仏様の教えのことであり、「仏様の教えの雨」ということになり、「甘露の法雨」は「甘露のような甘くておいしい仏様の教えの雨」という意味になります。このことから、「甘露」の「露」という文字からは、観音菩薩とのつながりを見出すことができます。
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 また、堂内に安置されている仏像の配置も、向かって右が薬師如来、左が観音菩薩であり「靈露」の文字の配置と一致します。

 「靈露」は、日本語での読み方は不明ですが、中国語では「líng lù」(リン ル)と発音し、中国の古文書などではこの単語がしばしば見られるようです。中国の古文書において「靈露」は、おおよそ二つの意味で使われています。一つは、最上の、非常によい露。もう一つは、仙薬または仙薬を比喩するものとして使われているようです。


参考文献
瀬戸内寂聴 2007 『愛と救いの観音経』 中央公論新社 
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