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出土瓦から ―繕いの痕― [奈良平安時代]

 瓦は何千、何万を必要とするので、道具類の消耗や補給は日常的と思われ、敷布も破れ使用不能になる場合も想定されます。瓦工房では布が不足してすぐに交換できなければ、当座は繕い修理をして使い続けることになります。そのような事情を物語る布目瓦が実際に製作されたことは生産地である瓦窯跡でも確認されています。納入先の遺跡である「寺内廃寺」からも見つかっています。
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写真1では粗目の布と中目の布をつづり合わせています。

写真2では綴り合せた糸目の末が見えています。
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写真3 「かぎ裂き」か「ほころび」に方形の別布で「継あて」した痕が見えます。
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 寺内廃寺例のような布目瓦が他の寺院跡か瓦窯跡かあるいは他の場所で確認されることで、埋もれた歴史が掘り起こされることになるでしょう。平瓦は女瓦とも言いますから瓦姉妹の再会というべきでしょうか。

写真4 布継の残る平瓦 左下隅に指紋も残っていました。
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出土瓦から ―古代の布― [奈良平安時代]

 寺内廃寺が建てられた男衾郡から税金として納められた「調布」の現物が東大寺正倉院に収められています。一反の布の隅には貢納者の氏名が次のように書かれています。『武蔵国男衾郡□(犭編に烏)倉郷笠原里飛鳥部虫麻呂調布一端 天平六年十一月』この布は西暦734年に笠原里の想定地埼玉県比企郡小川町に住む飛鳥部虫麻呂の名で武蔵国府から調の税として平城の都に送られたものです。「調布」とは中位程度の品質とされています。これらは庶民の衣服や生活用具などに主に使われたようです。瓦造りでは「商布(麻)」を使用していることが製作仕様書に当たる「延喜木工寮式」に見えています。平瓦用では1尺5寸(約45㎝)の商布を使い、2000枚の瓦を作れるとしています。
※ 調庸の布は中~下位の品質とされ「調布・庸布、交易布、商布」などに区分されていたようです。。
写真1  敷き布が破れている丸瓦の湾曲内面
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写真2 細目布(1㎝当たり18~20本)と粗目布(1㎝当たり10~15本)の繋いである布目
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※「里」は30戸以上を1単位とした集落のまとまり、「郷」とも表記する。男衾郡は8か所の里(郷)があったとされる。なお、1戸は戸主とその家族を成員とした集団、親の世代と子の兄弟、孫子までを含む血縁の近い親族であったことが遺された戸籍などから知られる。
参考文献 熊谷市史資料編2「古代・中世」
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熊谷市西部を巡る文化財探訪バスツアー [普及事業]

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国指定史跡「幡羅官衙遺跡群」についての説明

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麦翁権田愛三顕彰碑の見学


 7月10日、荒川公民館主催の熊谷市西部を巡る文化財探訪バスツアーが開催され、約30名が参加しました。熊谷市と深谷市にまたがる国指定史跡「幡羅官衙遺跡群」や、別府生まれで麦作技術の革新を行った麦翁・権田愛三の顕彰碑、安楽寺に安置されている彫刻美にあふれる九品仏と、五輪塔と板石塔婆が特徴の別府氏の墓、玉井地区の名称の由来となった玉乃井や玉井氏の墓がある玉井寺、歓喜院の建造物群などを担当した上州花輪村の石原吟八郎を祖とする石原系彫刻師が手掛けた玉井神社本殿、平安時代末期の源義家との関わりがあり鎌倉の鶴岡八幡宮の社領としても名が高い三ヶ尻八幡神社、広瀬古墳群にあり上円下方墳という特殊な墳形が特徴の国指定史跡「宮塚古墳」、新たに市指定有形文化財となった「赤城久伊豆神社本殿」などを見学しました。前回の座学での講座を経て、現地で実際の「モノ」と向き合う探訪は貴重な体験となったと思われます。熊谷には身近な存在であるゆえに見過ごされがちな文化財や史跡などが多くあります。ぜひ、探訪をお楽しみください。





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文化財センターの片隅に [植物]

 文化財センターの敷地の一角にルビー色の実を付けた草が生えていました。梅雨明けの陽光の中、真紅の実が青葉に映えて輝いています。この植物はけなげにもアスファルトとコンクリート擁壁の隙間から成長して身を付けたのでした。雑草として刈り払おうとしていたのですが、残しておくことにしました。この植物は「ラスベリー」でした。「キイチゴ」ともいいそのまま食べても、ジャムにしてもおいしい甘酸っぱい味わいといいます。
植えつけたわけではありませんので、鳥が種を運んだのでしょうか。文化財センター敷地の南側は、蛍の生育する溝の流れに沿って雑木林の防風林が続き、野鳥の憩う場所にもうってつけのようです。これから文化財センターでは夏季の各種イベントが行われます、市内より多少気温を緑が抑えてくれます。ぜひお立ち寄りください。
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出土瓦から ―瓦の布目― [奈良平安時代]

 瓦造に際して素材粘土と整形台との密着を防ぎ、できた瓦の分離を容易にするために整形台には布を敷いており、この敷布の痕跡がそのまま残る瓦が古代では普遍的です。中世以降の瓦は布目をあまり遺さないので、古代瓦を「布目瓦」と呼ぶ元となっています。布目は多くの場合、丸瓦・平瓦とも湾曲面の内側(凹面)に遺されています。
 寺内廃寺から出土している瓦の布目は大まかに粗・中・細の種類がみられます。当時の布は絹を除くと大麻、苧麻(カラムシ)、木綿(ゆう―コウゾ・クワなどの繊維)などが原料で、縦糸と緯糸を交互に交差させる「平織」の布になっています。瓦造りに使われた布と同種の「調布」、「庸布」が東大寺正倉院の宝物として残されています。調布は現物税として納める布、庸布は労役の代納として納める布で、衣服や装飾品の下地など様々な器物に使われています。
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写真1 布目の細な瓦 1㎝当たり18~20本

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写真2 布目の粗い瓦  1㎝当たり14~16本

奈良時代の平均的な平織布の糸目は1cm当たり経糸9.4×緯糸7.6本程度のようです(文献1)。もっとも細密な「調細布」の例では、1㎝当たり経16~20本、緯12~14本程です。
 
文献1 布目順郎 1992「目で見る繊維の考古学―繊維遺物資料集成」染色と生活社
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市指定文化財「常光院本堂」説明板 設置 [建造物]


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本年3月に熊谷市の有形文化財(建造物)に指定された熊谷市上中条にある常光院本堂の説明板を設置しました。常光院は平安末期から鎌倉時代の武将であり判官の中条氏に由来する中条氏館跡の敷地中央に創建された寺院で、中条家長が祖父の常光の異例のために建立されたことから「常光」の名が授けられています。鎌倉時代以降、本堂の再建が度々行われ、その都度、部材が再利用として転用されるなどの状況が指定にあたっての調査で判明しています。そして本堂建築の最たる特徴の一つが荘厳な茅葺屋根です。定期的な交換を含めた保存が綿々とされてきたこと自体にも大きな価値が感じられます。熊谷厄除大師とも知られる寺院の境内は俳句寺としても知られ、故・金子兜太氏をはじめとする複数の句碑を目にすることもできます。お近くにいらした時は、どうぞご参観ください。


常光院
〒360-0001 埼玉県熊谷市上中条1160
TEL:048-522-4084 FAX:048-524-9134


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発掘された日本列島 ―新発見考古速報展―2018 に行ってきました。 [奈良平安時代]

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 過日、猛暑の中、江戸両国へ「江戸東京博物館」へ標記の観覧に行ってきました。学習見学の小学生と海外からの観光客のにぎわう展示場の一角に全国からの精鋭遺物が並んでいました。内陸部ではほとんど掘る機会のない貝塚貝層の剥ぎ取り標本は圧巻でしたが、いずれ劣らぬといったところです。
 最近、埼玉からの出場が少ないので少々侘しさも感じていましたが、ですが気が付きました。古代⑪ 史跡 武蔵国分寺附東山道武蔵道跡 の展示物の中に瓦が展示されており、「郡名瓦(男瓦)」「幡羅郡」とあり、「幡」の刻字が記されていました。埼玉県県人(賢人)としては心憎い展示に感心した次第です。幡羅郡は埼玉県の北部、熊谷市・深谷市に所在する国指定史跡に本年指定された『幡羅官衙遺跡群』の所在地です。
 見るべきものが館内他の展示を含めて多々あります。ぜひ足をお運びください。江戸東京博物館での開催は7月22日までになります。
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※ 郡名瓦には「中」の刻印―「那珂郡」もありました。本庄市の周辺地位と考えられています。
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国指定史跡「幡羅官衙遺跡群」 その6 [お知らせ]

 梅雨明けにもかかわらず、雨が続く天気ですが、再び幡羅官衙遺跡群に関する紹介です。
今回も特別展に向けてのお知らせということで、市内別府公民館の外構フェンスに写真のとおり横断幕を設置しました。
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この別府公民館は幡羅官衙遺跡群に一番近い公共施設ということもあり、今月末から行われる特別展の会場にもなっています。特別展の会期中(平成30年7月30日〜)にこの横断幕を見かけたら是非公民館へお立ち寄りください。
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イオン熊谷店「無形民俗文化財パネル展」 [民俗]


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 7月に入り、各地域で祭礼が行われています。熊谷市指定無形民俗文化財なども開催される予定です。それらの祭礼などの紹介を目的として、イオン熊谷店3階で「無形民俗文化財パネル展」が開催されています。各地域の伝統芸能の紹介や7月20日~21日開催される熊谷うちわ祭各町区の山車屋台についてパネル紹介しています。またイオン熊谷店が所在する本石区の神輿もあわせて展示されています。どうぞご覧ください。

パネル展概要
とき  開催中~8月末(予定)
ところ イオン熊谷店3階 イベントスペース(埼玉県熊谷市本石2丁目135)
問合せ 電話: 048-529-3131



市内における夏の祭礼の情報については市報くまがや7月号の該当ページ(PDF)をご参照ください。(以下URL)
http://www.city.kumagaya.lg.jp/about/kouhou/shiho/heisei30nend/h30nen7gatu.files/3007all1-10.pdf






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市民協働「熊谷の力」事業・「はじめの一歩助成金」事業 合同成果報告会 [普及事業]

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 平成29年度に実施された市民協働「熊谷の力」事業・「はじめの一歩助成金」事業 合同成果報告会が大里コミュニティセンターで開催されました。文化財関連からは、熊谷市吉岡地域の万吉地区文化遺産保存会との市民協働事業と、「はじめの一歩助成金」事業として熊谷市下川上地区にある愛染堂を基点にした寺カフェ事業についての報告がありました。

 万吉地区については、地域の文化財や文化遺産の再発見事業として、地域の方々による調査と報告をまとめたガイドブックと、説明板の設置、スタンプラリーの開催などについて保存会会長より報告があり、担当課として事業成果についての説明を行いました。
 また、愛染堂の寺カフェ事業は立正大学の地球環境科学部の研究室グループが企画運営を担い、保存修理後の愛染堂をいかに保存活用するかという着目点により、地域の祭礼時などに幅広い世代の交流を深めることを目的に進められてきました。この1年間を通しての取り組みについて報告しました。それぞれの事業は今回の助成事業を契機に今後も継続的に実施されていく予定です。江南文化財センターとしても各団体と協力しながら、本市の文化遺産の啓発を進めていきます。


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