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熊谷のサウンドスケープを考える。 [民俗]

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熊谷市指定無形民俗文化財「池上獅子舞」の勇壮な舞い(撮影:富田直子)


 カナダの作曲家マリー=シェーファーの造語で、 目に見える「ランドスケープ(景観)」に対し、ある地域固有の音や創造された音によって演出される音の環境を「サウンドスケープ」と言います。『ブリタニカ国際大百科事典』によると、「騒音などの人工音、風や水などの自然の音をはじめ、社会を取囲むさまざまな音環境の総体をさす。それは地域や時代、季節、時間などによって変化し、どのように人に聞こえるかは、その場合によってそれぞれ異なる」と解説しています。音が作りだす環境を考えたとき、例えば熊谷の夏といえば、熊谷うちわ祭の囃子、熊谷花火大会の花火の音が想起され、熊谷の冬であれば、赤城おろしと呼ばれる北風の轟音などが挙げられます。熊谷市指定の無形民俗文化財についても、東別府祭ばやしや板井屋台囃子、上新田屋台囃子、熊谷木遣での「木遣唄」などを耳にすることで、熊谷の季節と日常をを彩る音の環境を受け止めることができ、熊谷の文化や芸術の一つとして感じることができます。こうしたサウンドスケープが人々の心に響き、伝統芸能が放つ懐かしさや心地良さを改めて再認識することになります。

 一方、耳の聞こえない方々にとっても、これらのサウンドスケープは乖離したものではなく、視点を変えることで親しくもなり得る存在であるということもできます。音の響きは感受できなくとも、勇壮なお囃子の動的な姿を見ることや、熊谷の各地に伝承されている獅子舞の繊細かつ豪快な演舞も、音としてではなく、音を表現する身体の動きとして捉えられるように思います。それが無音のサウンドスケープの可能性と言うこともできます。

 また、視覚の障がいがある方々にとっても、見ることのできない、見えづらいランドスケープをサウンドスケープがカバーする役割があります。それは太鼓の撥(ばち)や鐘、笛などの楽器を手にすることで、音が発する原点の器具に対する新たな意識が生まれることが期されます。例えば獅子舞などの勇壮な舞いが目にできない場合も、その力強い声や踏み込む足の音などが、獅子舞を表現するものとして感受できるように思われます。

 このように様々な条件や状況にある人々にとっても、そこにある文化財や自然、環境は平等にあり、それぞれの方法で感じ、学び、楽しむことにより、そこにある世界が更に広がりを見せるのかも知れません。まさに文化財もサウンドスケープとランドスケープが融合し、多くの人々にとり近しく親しい存在であるためには、どのような学びの方法や体験の機会、展示がよいのか模索していきたいと考えています。





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